【Z3 M Coupe】VANOSオイル漏れ修理&足廻りフルブッシュ交換【53,000Km】
本日2度目のレポート更新です。
今回はVANOSオイル漏れ修理と足廻りフルブッシュ交換の為、Z3Mクーペが入庫したので
メンテナンスレポートとしてご紹介していきましょう。走行距離は53,000m。
M CoupeはM3モデルと同じエンジンの3.2L直列6気筒DOHCを搭載しパワーは300馬力オーバーを誇り
ドライビングが非常に魅力的なモデルですね。Z3・Z4どちらのMクーペも今非常に人気があります。
ただZ3Mクーペは登場から15年~20年前が経過しているモデルなので
足廻りの消耗など走行距離が伸びていなくても進んでいますので、
今回はそういった点を重点的に整備していきましょう。
初めて入庫した車輛なので総合的に点検を進め、今回はVANOSと足廻りを中心に作業を進めていきます。
まずはVANOSユニットのオイル漏れを確認。
エンジン上部の一番手前に付いているアルミ製のパーツがVANOSシステムになります。
アクセルの開度やエンジンの回転数に応じて吸排気のバルブタイミングを無段階で調整して、
低速域では安定したアイドリング、中速域では高トルクと低燃費、
高速域では十分なパワーを発揮させてくれるという優れモノです。
ただ、オイル漏れが発生すると一気に症状が悪化して漏れ出す量も多くなってしまうので
出来るだけ早期に発見し対応する事が大切です。
多少の滲みなら大丈夫…と放置しているとオイル漏れは更に酷くなり、その他のパーツへの影響だけでなく、
エンジン性能や燃費の低下、走行中の突然のトラブルにも発展する事があるので要注意です。
VANOSユニットを外す為、先にカムカバーを取り外します。
カムカバーを外して同時に内部の状態を確認。距離は50,000Kmなので綺麗なカムでした。
SSTを使用してVANOSを取り外していきましょう。
VANOSユニットの取り外しが完了。
カムカバーの装着面に残ったガスケット跡等はオイルストーンを使用して綺麗に整えておきます。
取り外したVANOSユニット本体。
オイル漏れの箇所に付着した汚れを見ると漏れ始めからかなりの時間が経過している感じです。
内部のスラッジを確認し、本体を洗浄してから作業を進めます。
ソレノイドバルブは正常に動作するか確認を行って異常が見つかれば交換が必要なのですが、
特に動作に問題が無ければOリングのみの交換になります。
新旧のソレノイドバルブのOリング。
OリングはVANOSシステム各箇所に多く使用されており、
経年劣化等で弾力性が失われて硬化してしまう事でオイル漏れを発生させます。
その為、問題のあるパーツだけではなく使用されている全てのOリングの交換が必要です。
新旧のソレノイドカバーのガスケット。
こちらも経年劣化で接着面に隙間が発生するとオイル漏れに繋がる為、交換していきましょう。
ソレノイドバルブを組込み、新しいガスケットを使用してカバーを装着します。
装着に使用するアルミ製のボルトは非常に折れ易く、
均等のトルクで装着しないとオイル漏れに繋がってしまう為、慎重な作業が必要です。
吸気側の油圧ピストンカバーを外し、使用されているOリングを交換。綺麗に洗浄します。
使用されているOリングが劣化するだけでなく装着ミスによりオイル漏れを発生させる事があるので
装着には十分に注意を払います。
吸気側、排気側共にカバーにはOリングが使用されているのでそれぞれ新品へ交換。
状態を見てまだ使用出来るのでは?と感じたとしてもいずれは劣化が進む為、
全てのパーツを同時に交換しておく事がベストでしょう。
新旧のVANOSフィルター。
VANOSユニットのエンジンの装着側にもOリングが使用されているので交換します。
VANOSユニットのパーツの交換を終えたらエンジンへ装着。
VANOSユニットの装着が完了。
カムカバーを装着します。
新旧のカムカバーガスケット、プラグホールガスケット。
他にカムカバーを固定するボルトに装着されるラバーシールも重要で、
カムカバーガスケット・プラグホールガスケット・ラバーシールと
必ず3点セットで交換し、カムカバーを固定するボルトは均等なトルクで装着しないと新しいパーツを使用していても
オイル漏れの発生原因になる為、装着には手順を守って慎重に作業を進めていきます。
カムカバーを装着し、更にエンジンカバーを取り付けてVANOSユニットのオイル漏れ修理が完了。
エンジンオイルの交換。
交換の前にフラッシング剤を使用してエンジン内部で発生したスラッジやカーボンの汚れを落とし易くします。
当社で使用しているフラッシング剤は【wynn’s OIL SYSTEM CLEANER】
洗浄の際の摩擦を抑えて保護被膜を形成し、汚れの再付着防止効果で新しいオイルの再汚染を防ぐ効果が期待出来ます。
当社のオイル交換メニューにはこの作業も含まれているので、
単にオイル交換をするよりも効果的にエンジン内部をクリーンにする事で
汚れの堆積による燃費やパワーの低下を防ぐ事に繋がるのでおすすめの作業です。
1缶全てをを注入し10分~15分程アイドリングを行ってエンジン内部の
隅々までフラッシング剤を浸透させて堆積した汚れを除去します。
エンジン内部の汚れはエンジン本体だけでなく、VANOSユニットのオイル漏れにも繋がるので
交換時期を守って定期的な交換を心掛けていきましょう。
エンジンオイルの排出は時間を掛けて雫が垂れなくなるまで行い、
出来るだけ古いオイルをエンジン内部に残さない事が大切です。
廃油はそのまま処分するのではなく、異常な汚れや金属片等が含まれて無いかチェックをして
エンジン内部の状態を探ります。
新旧のオイルエレメント。
装着に使用するOリングやワッシャ等も全て新品へ交換。
排出を終えたら新しいオイルエレメントを装着して規定量のエンジンオイルを注入してエンジンオイル交換が完了。
オイル交換後はオイルインスペクションのリセットを行います。
この車輌は、E36モデルと同様にメモリは1コマ3,000kmで消灯していきます。
オイルの交換時期は3,000km~5,000kmをお勧めしているので、メモリが1コマ消灯した時点で交換を意識して
2コマ目が消える前に交換する様に心掛けて下さい。
特にM3やALPINA等はオイルの管理の有無だけで性能やトラブルの発生率等にも違いが出てしまうので
しっかりと管理をしておく事が大切です。
オイルインスペクションのリセットが完了。
次に足廻りのブッシュ交換を行います。
高性能なエンジンを搭載したスポーツモデルは足廻りのパーツに与える影響も多く、
足廻りのパフォーマンスが変わってしまうだけで、走行の印象はガラッと変わってしまうので
エンジンだけでなく足廻りの状態の変化にも注意が必要です。
交換時期は走行環境や走行方法に左右される為、お電話やメールでお問い合わせいただく事も多い内容の作業ですが、どれぐらいで交換が必要なのかを判断する事は実車を見ない限り、私達でもはっきりとは判断出来ません。
但し、純正で使用されているブッシュはゴム製の為、10年以上経過しているモデルは、
振動や衝撃を吸収しきれずにクラックが入ったり、一気に破損してしまう事があるので、
気になる方は一度はチェックしておいても良いでしょう。
フロントから作業を始めます。
足廻りのパーツを外す為、タイヤやショックアブソーバー、ブレーキシステム等を外します。
パーツを外す際は各箇所の点検も行って状態を確認しておきます。
ショックアブソーバー、ブレーキシステムを外したらホース類のチェックを行って足廻りのパーツを外していきます。
新旧のタイロッドエンド。
ボールジョイントのブーツが破れてしまうと中のグリスが無くなってしまいボールジョイントに悪影響を及ぼします。
砂などが混入してしまうとボールジョイントにダメージを与えてガタつく原因になってしまう為、
亀裂には注意が必要です。また、ブーツの破れが無くてもボールジョイントの固着やガタツキなど
が発生ししている事も多いので、経年や走行距離などを考慮しながら交換していきましょう。
新旧のフロントコントロールアーム。
フロントロアアームコントロールブッシュの交換。
SSTを使用してコントロールアーム本体からブラケットごと取り外します。
新旧のフロントロアアームコントロールブッシュ。
圧入されているブッシュのみを交換します。
負担が多く掛かる箇所なので、ハンドル操作の違和感、
ブレーキングの際の不安定な挙動を感じたらこのブッシュが傷んでる可能性が高いです。
走行方法や距離により劣化具合は異なりますが、他のブッシュよりも交換する比率が高いので
定期的に確認しておくと良いでしょう。
プレス機を使用して古いブッシュを打ち抜いた後に慎重に新しいブッシュを圧入します。
取り外した逆の手順でフロントロアアームコントロールブッシュを装着。
装着の際に無理に押し込んだり斜めに入ってしまうとブッシュが破損し易くなるので慎重な作業が必要です。
新旧のショックアブソーバー。
今回は純正ショックをチョイス。
新旧のアッパーマウント・バンプラバー・ダストカバー・スプリングパッド。
トップマウント部のゴムの劣化だけでなくベアリングの動きも悪かったですね。
完全にグリスが切れてベアリングに錆が出ているのが確認出来ます。
車重だけでなくブレーキ時の反動、ステアリング操作時の挙動等を受け止めている箇所のひとつですね。
新しいフロントコントロールアームを装着。
ショックアブソーバー、ブレーキシステムを元通りに組んでいきます。
新旧のフロントスウィングサポート。
ボールジョイント部のブーツが破れていたり、劣化して動きが鈍くなっている場合は交換が必要です。
新旧のフロントスタビブッシュ。
捻じれる力が掛かる箇所なので変形や破損等に注意が必要です。
フロントスタビブッシュ・スウィングサポートを取付し、フロント部はひとまず完了です。
接地するまでは各部とりあえず仮止めで留めておきます。
フロントセクションの作業を終えたら、リアセクションの作業へ移ります。
マフラー・プロペラシャフトを外し、リアアクスルキャリアを降ろしましょう。
降ろす前にデフオイルの排出。
リアアクスルキャリアを車体から降ろした後に状態を確認し、各パーツに分解してからブッシュの交換を行います。
Z3のリアセクションはE30モデルと同様に、セミトレーリングアーム式サスペンションが採用されているのですが、
リアアクスルキャリアのブッシュとトレーリングアームのブッシュが消耗してしまうと
タイヤの内側が偏摩耗してしまいます。
偏摩耗している状態でブッシュを交換しないで乗り続けるとリアアクスルキャリアが変形してしまう事があるので
セミトレーリングアーム式サスペンションを採用しているモデルはその点も踏まえてメンテナンスを行って下さい。
状態を確認するとブッシュにクラックが入っていてブッシュとしての役割を果たしていませんでした。
降ろした状態だと良く分かりますね。
リアスウィングサポート部分。
セミトレーリングアームブッシュ部分。
デフマウント部分。
リアアクスルキャリアブッシュ部分。
アームなどの歪みが無いかを確認し、洗浄した後、ブッシュの交換していきましょう。
SSTを使用してリアアクスルキャリアブッシュを抜き取ります。
新旧のリアアクスルキャリアブッシュ。
これでは気持ち良く走る事は不可能ですね。
デフカバーを取り外し、綺麗に洗浄しデフマウントを交換します。
デフカバーの装着面はオイルストーンで綺麗に整えてから新しいガスケットを使用して装着します。
新旧のデフマウント。
見た目に問題は無くても他のブッシュと同様に確実に経年劣化は進行しているので同時に交換します。
新旧のリアショックアブソーバー・アッパーマウント。
各ブッシュを交換したらパーツを元通りに組み直してリアアクスル関連のブッシュの交換が完了。
セミトレアームブッシュの交換写真は工場長、撮り忘れです・・・
新旧のスプリングパッド。
アッパーロワー共に交換、コイルスプリングは再使用します。
新旧のリアブレーキローター。
計測した所、摩耗していたので交換します。
新旧のリアブレーキパッド。
リアパッドは残5mm以下だったので同時に交換です。
リアスウィングサポートとリアスタビブッシュの交換。
新旧のリアスウィングサポートとリアスタビブッシュ。
劣化の判断が難しく見落としてしまいがちな箇所ですが、他のブッシュと同様に状態の変化に注意して
クラックや偏心、変形等の異常があれば交換が必要です。
取り外したプロペラシャフト。
センターベアリングとユニバーサルジョイントを交換します。
プレスでセンターベアリングを打ち抜きます。
新旧のセンターベアリング。
経年を考慮して交換。
センターベアリングにガタが出てしまうとプロペラシャフトが暴れてしまい異音を発生させます。
特にハイパフォーマンスなエンジンを搭載しているモデルは負担も多く、
通常よりも劣化が進行する傾向なので注意が必要です。
新旧のユニバーサルジョイント。
こちらもセンターベアリングと同様にハイパワーエンジンからの振動を受け止めているので経年が進むと
全体にクラックが発生するので注意が必要です。
高速走行時にクラックから一気に破損…と考えるだけでゾッとしてしまうので、
定期的に点検を行ってヒビ割れを見つけたら早急に交換して下さい。
クラックが入っています。
小さいクラックでも見落としてしまわない様に特に劣化し易い箇所には目を光らせて確認作業を進める事が大切です。
リアアクスルキャリアを車体へ戻してリアセクションの各ブッシュ交換が完了。
装着は仮止めの状態で、車体を接地させて軽くテストランを実施してから本締めを行います。
デフオイルを規定量注入してデフオイル交換が完了。
エンジンオイルと同様にデフオイルも交換が必要で内部ではギアが噛み合ってスラッジを発生させる為、
定期的に交換時期を見極めて交換して下さい。
交換を怠ると内部で発生したスラッジが研磨剤の様になってギア部を傷めて破損させる事があるので注意が必要です。
タイヤを装着したら軽くテストランを実施し、パーツを馴染ませて仮止めだった箇所の本締めをしてから
4輪ホイールアライメント調整を行います。
車は真直ぐに走る為に4輪共に各調整を行っており、この調整が正確でないと真直ぐに走らないばかりか
燃費の悪化やタイヤの偏摩耗、ハンドルのセンターのズレ、走行時やブレーキング時に不安定な挙動になる等、
様々な症状を発生させます。
足廻りパーツの脱着によりホイールアライメントの数値は変わってしまう為、再び調整が必要になるのですが、
ローダウン時やタイヤ・ホイールのインチアップ、長期に調整を行っていない車輌や
縁石に激しくぶつけたりしまった場合も調整が必要になるので注意して下さい。
調整はメーカーの基準値を元にタイヤの摩耗度等、全体的なコンディションを確認しながら調整を繰り返し行って
その車輌に最適な数値を導き出し、通常の走行だけでなく高速時の走行のバランスも見ながら最終調整を行います。
全ての作業を終えたら、テストランを行って修理箇所や
その他に違和感等の気になる点が無いか最終チェックを行います。
足廻りとブッシュの交換を行った事でトータルバランスが取れて本来のパフォーマンスを発揮する事が可能になり、
身体をシートに押し付けられる程の加速感とクイックなハンドリングは、
車と一体となって走行を楽しむ心地良さを体感させてくれました。
後日、オーナーへ分解整備記録簿、4輪ホイールアライメントデータをお渡しして納車となります。
2018年08月27日