【E36 M3C】24ヶ月法定点検&車検整備【65,000Km】
E36 M3Cが24ヶ月法定点検と車検整備で入庫です。
今回は基本的な整備の他に足廻りのブッシュ交換、
クラッチ交換等の経年・走行距離を考慮した総合的なメンテナンスメニューで作業を進めていきます。
始動してしばらく走行すると2速にシフトチェンジが困難になるとの症状を
テストランで確認したのでクラッチ残量を確認、クラッチ板の残量は減ってはいますが滑りが出るほどではないので
プレッシャープレートの動きが悪くなっている可能性が考えられます。
走行10,000Km台からこの車のメンテナンス全般を任されており、部分的なブッシュ交換はしていましたが
フルブッシュ交換はまだの車輛で、テストランでもリア挙動の不安定さも目立ちましたので
今回オーナーと打ち合わせの上、フルブッシュ交換をメインとして作業を進めていく事が決まりました。
交換前にコントロールアームやタイロッドなどにダメージが無いかを確認していきます。
リア部も前輪側と同様に経年を感じさせますが見た目は特に問題ありませんが
ブッシュの良否判定は実際に乗ってみて車がどういった挙動をするかの診断が必要になりますので
パッと見ただけではなかなか判断が付かない事もあります。
今回、交換するパーツ一式。
フロントリアビルシュタインショックアブソーバー
足廻りのブッシュ一式クラッチ
クラッチペダル
テールランプ
バッテリー等…
ブッシュは圧入で交換するものやASSY交換になるパーツ等、足廻りに関するブッシュは一通り新品へ交換。
テールランプやオイルレベルセンサー等、割れや接触不良、センサー異常等、新品へ交換。
クラッチはクラッチプレート、クラッチカバー、レリーズベアリング等、一式を交換。
タイヤを外し、交換作業を始める前に先に作業に関連する各オイルを排出。
足廻りのブッシュ交換の前にデフオイルを排出。
トランスミッションオイルを排出。
遮熱板やマフラー、プロペラシャフトを外しミッション・リアアクスルを車体から降ろせるよう準備していきます。
サイドブレーキインナーシューは部分的に剥離してしまっているので交換です。
リアアクスルキャリアを車体から降ろし、アッパー・ロアコントロールアーム、リアトレーリングアーム等、
各パーツに分けてからブッシュを交換を行います。
ブッシュの交換の前に各ブッシュの状態を見ていきましょう。
かなり断裂が進んでいるのが分かりますね。
ボールジョイントも動きが悪そうです。
ブッシュだけでなくアームなどに捻じれや歪みが無いかも確認。
溶接個所などもチェックし、クラックなど出ていないかも見ておきます。
ブッシュの消耗。
これだけ大きく断裂が広がっていると、縦・横の動きの追随は不安定なものとなり
リアが暴れるといったような表現が当てはまる挙動になってしまい、コーナーリングだけでなく
直進時でもちょっとした段差などでドライバーに不安感を感じさせる挙動となってしまいますね。
ロアコントロールアーム・アッパーコントロールアーム。
元に戻す際に左右間違えない様にマーキング。
ロアコントロールアームの状態を確認。
ロア側はアーム自体が変形しやすい事もあり、場合によってはアームごと交換した方が良い場合も。
アッパーコントロールアームブッシュ。
アクスルキャリアのブッシュをSSTを使用して全て取り外します。
全てのアクスルブッシュが抜けた状態。
新しいブッシュを装着。
アクスルブッシュの装着が完了。
リアトレーリングアームブッシュの状態を確認。
ブッシュを外して交換。
トレーリングアームのボールジョイントを交換。
ナックル部分のマウントブッシュを交換
リアのスタビライザーブッシュ・スウィングサポートの交換。
新旧のスウィングサポート。
アッパーコントロールアームのブッシュ交換。
プレス機を使用してブッシュを圧入交換。
ロアコントロールアームのブッシュも同様に交換。
新旧のロアコントロールアームのブッシュ。
ブッシュの圧入は内部のガイドに傷が無いか注意を払い、
傷が有る様なら処置を施して支点がずれない様に慎重に装着。
リアアクスル部の全てのブッシュを交換し、元の通りに組み直して車体へ装着。
スプリングパッドも交換。
ロア側は砂利などの異物が堆積していますので必ず清掃し新しいパッドを装着します。
リアアクスルを車体へ装着し、リアセクションのブッシュ交換が完了。
最終的にアライメント調整をする為、本締めをせずに仮止めの状態にしておきます。
ブッシュ交換後は機敏に反応するハンドリングとスムーズなコーナーリング性能を取り戻し、
生まれ変わったと思う程にM3の走行を楽しんで頂けると思います。
車体からミッションを降ろしクラッチパーツの交換を行います。
各部をチェック。
ハウジング内はクラッチダストで汚れているので綺麗にスチーム洗浄。
車体からプレッシャープレート、クラッチプレートを外します。
外したプレッシャープレート、クラッチプレート。
プレッシャープレートにかなりの錆の発生がありますね。
熱の影響で動きが悪く、シフト操作に異常が出ていた事が推測できます。
フライホイール奥に装着されているパイロットベアリングは交換します。
シフトアーム部のカラーやブッシュを交換。
大掛かりな作業を行っている場合は関連するパーツも劣化を考慮して同時に交換しておく事が大切で、
作業時間の短縮や工賃等のメンテナンスコストの削減に繋がります。
シフトアームのブーツ部には破損があり、確実に振動等を吸収出来無い状態。
ブッシュ、ブッシュベアリング、カラーの3点を同時に交換する事が基本です。
シフトアーム部のメンテンナンスが完了。
走行性能が高いモデルはギアチェンジの操作感次第で全くフィーリングが変わってしまう為、
今回の様に総合的なメンテナンスプランを立て、細かい部分にも拘って作業を行う事が大切です。
ミッションハウジングの洗浄が完了。
スチーム洗浄で汚れを落とす事で作業効率を向上させるだけでなく、
次回のメンテナンス際に汚れ具合を確認する事で、クラッチ内部に異常磨耗等が無かったか
状況を判断の目安にする事が出来ます。
新旧のボールピン。
ボールピンを支点にしてレリーズフォークが動く為、徐々に摩耗していくので消耗品として考えて交換が必要です。
新しいボールピンを装着。
錆が発生していたインプットシャフトのスプラインは綺麗に錆を落としてからグリスアップしておきます。
グリスが切れるとどうしても錆が発生してしまいレリーズベアリングの動作に支障が出てしまう為、
グリス切れ等による錆の発生には注意が必要です。
フライホイールのパイロットベアリングを外します。
新旧のパイロットベアリング。
ベアリング類のパーツは中の球体がスムーズに動作する事で機能を果たしているのですが、使用していくと
中の球体が摩耗する事で異音や不具合を発生させる為、
トラブルが発生していなくても経年を考慮して交換しておく事が必要です。
フライホイールは使用していると徐々に表面が荒れていく為、状態を確認してサンドペーパーで表面を整えておきます。
半クラッチをしないでいきなり繋げたりするとフライホイールに斑点の様に打痕が付き、
クラッチの摩耗よりも先にフライホイールやレリーズベアリングの交換が必要になる事があるので
乱暴なクラッチ操作はトラブルの原因になる為、クラッチペダルを蹴る様に操作している方は要注意。
新旧のクラッチカバー、クラッチプレート、レリーズベアリング。
クラッチの交換はこのパーツをセットとして交換する事がセオリーなのですが、
パーツ代の節約の為なのかレリーズベアリングのみ交換を行っている作業事例もある様で、
結果的にその他のパーツも劣化が進む為、再びミッションを降ろして交換する事になり、
作業時間や工賃等を節約したつもりが逆に負担増になってしまう事があるので
目先の作業だけでなく長期を見据えた総合的な判断で作業を行う事が重要です。
車体へ新しいクラッチ等を装着してミッションを戻しクラッチのメンテナンスと交換が完了。
シフトアームも車体へ装着しミッションと接続。
新旧のリアショックアブソーバー、アッパーマウント。
ショックアブソーバーやアッパーマウントは消耗する事で異音を発生させたり、
衝撃を吸収する事が出来なくなって乗り心地に影響を及ぼします。
アッパーマウント、ガスケットは共に交換。
新旧のサイドブレーキシュー。
サイドブレーキの利きが甘い状態で駐車した場合、MT車はギアが入っていなければ無人で動き出す危険性が有る為、
違和感や利きが甘いと感じた際は早めに点検をして下さい。
デフオイルを規定量注入。
ドレンボルトのワッシャは自身が潰れる事で密着性を高めているので再使用は不可。
ドレンボルトを外した際は必ず新しいワッシャへ交換して下さい。
ミッションのフィラー・ドレンボルトは綺麗に洗浄後、新しいシールテープを巻いておきます。
ドレンボルトを装着し、ATFを規定量注入。
M3のギアオイルはATF指定なのですが、
ATFはギアオイルよりも粘度が低く冬場等の低温時ではギアが入りやすくなる為
通常のモデルでも使用する事が多いのですが、
サーキット等でハードな走行をする方はギアオイルを使用した方が良いでしょう。
新しいフランジガスケット使用し、プロペラシャフトをデフ側へ装着。
新しいフロントサスペンション。
前後共に新しいサスペンションを装着。
新旧のタイロッドエンド。
ブレーキフルードの交換。
ブレーキフルードは基本的に車検毎の交換が基本でブレーキシステムに異常が有ると車検には通りません。
車を使用するしないに関わらずフルードは徐々に湿気を吸収して劣化していく為、
使用する環境や走行方法により劣化具合が変わる為、点検は1年毎に行う事が大切です。
ブレーキフルードの劣化は無色透明から徐々に紅茶色から赤黒く変色していくので、
エンジンルーム内のブレーキフルードタンクの蓋を開ければ
ご自身でも確認が可能なので日頃からチェックをしておくと良いでしょう。
交換には専用の機械を使用して圧力を掛けてフラッシングを行い、
ブレーキ経路内で発生した錆等のスラッジを古いフルードと共に車外へ排出します。
排出した古いフルードに異常な錆や汚れ、不自然なエアの混入等が有った場合は原因を突き止める為、
ブレーキシステムの総点検が必要になる場合があります。
M3等の高性能エンジンを搭載したスポーツモデルはブレーキに対する認識を高めておかないと、
大きな事故に発展してしまう恐れがあるので定期的にメンテナンスを行う事が重要です。
パワステオイルの交換。
専用の機械を使用してフラッシングを行いパワステポンプやギアボックスで発生したスラッジ等を
古いオイルと共に車外へ圧送します。
フラッシング後は古いオイルを経路内に残さない様にする事が大切で
古いオイルを完全に排出させてから新しいオイルを注入します。
交換後のパワステオイルは画像の様に赤い透明色なのですが、
経路内に汚れが残っているとこの様に綺麗な透明にならないばかりか
古いオイルと混ざり合う事で再汚染されて直ぐに汚れてしまうので適切な機材と施工方法を行う事が重要です。
クラッチペダルの交換。
経年でペダル付け根のゴムブッシュが擦れあって異音を発生させたり、
走行中は常に使用して踏み込みを繰り返している為、
踏力や踏む際の角度により変形してしまっている事があります。
新旧のクラッチペダル。ギューギューといったような異音が出ている場合は
ペダルASSYでの交換が必要です。
ペダルを踏んでも元に戻す為にペダルにはリターンスプリングが付いているのですが、
リターンスプリングを固定するパーツは樹脂製なので経年で折れてしまう事があるので注意が必要です。
エンジンオイル交換。
オイルを排出する前にフラッシング剤を注入してエンジン内部に堆積したスラッジやカーボンの汚れを落とします。
エンジンオイルには様々な効果が有り、潤滑・洗浄・冷却・防錆・密封等で定期的に交換を行っていれば
これらのオイルの持っている性能だけで常にエンジン内部をクリーンに保つ事は可能なのですが、
使用していくと当然効果は薄れ充分な効果が得られなくなった結果、内部に汚れが堆積してしまいます。
効果が無くなった状態でも直ぐにトラブルに繋がる訳では無いので交換を怠ってしまう方が多く
オイルの交換時期を過ぎてしまったまま乗られている車輌を取り扱う事が多くなっています。
当社で使用するフラッシング剤は洗浄時の摩擦を抑え、素早く汚れに浸透して汚れを落とし、
保護被膜を形成する事で落とした汚れの再付着を防止するので、新しいオイルの再汚染を防ぐ効果が期待出来ます。
10~15分程アイドリングを行ってフラッシング剤をエンジン内部に浸透させた後にオイルを一気に排出。
オイルレベルセンサーの交換。

新旧のオイルレベルセンサー。
オイルエレメントを交換。
使用するオイルはFUCHS社のTiTAN SuperSyn 5w-50をチョイス。
停止時の電圧が11v後半だった為、バッテリーを交換。
交換したバッテリーはVARTA製をチョイス。
4輪アライメントの測定と調整。
測定の前にテストランを行ってから仮止めだった部分を全て
既定のトルクで締め直して再びテストランを行って測定検査を行います。
足廻りのブッシュ交換後はセッティングが非常に重要で、メーカーの基準値を元に何度もテストランと調整を行い
その車に最も適した調整を導き出していきます。
経年やタイヤの摩耗等でも車輌毎に調整は異なってくる為、知識と経験を生かしながら慎重に調整していきます。
最終的なテストランでは違う車輌に乗っているのかと思える程にフィーリングの違いを体感出来る様になりました。
シフトが小気味良く入り、スムーズなクラッチ操作でグングンと加速し、
クイックなコーナーリング等、M3ならではの走行を楽しんで頂けると思います。
最終のテストランで問題が見つからなければ、陸運支局へ車を持ち込んで車検を取得。
24ヶ月定期点検記録・車検証・4輪アライメントデータ・車検ステッカー・定期点検ステッカー等を
オーナーへ渡して納車となります。
今回はE36M3の足廻りのブッシュ交換等のリフレッシュを兼ねたメンテナンスを行いました。
E36M3は最終モデルでも約20年が経過しており、大切に長く楽しんで頂く為にも、
定期的なメンテナンスの他に総合的なメンテナンスの計画を立てておくと安心です。
20年前の車輌だとしてもしっかりとメンテナンスをして今でも楽しんで乗り続けたいと感じるのは
M3の魅力なのかも知れませんね。
2017年11月12日