第54回 2台のM3
今回は2台のM3のメンテナンスレポートです。どちらも2桁ナンバーで
オーナー様の車に対しての思い入れとこだわりを感じる2台です。
こだわりを強く感じた時、任されている主治医として私達も常に知識と技術向上を忘れずにと気が引き締まります。
最近はM3の足廻りの見直しメンテナンスが非常に多いです。
今回のM3は通常走行時だけでは無くブレーキ時のステアリングのジャダーも酷くローターも前後交換。
以前よりオーナー様と施工打ち合わせをしていたメニューを実施致しました。
リヤマフラー、プロペラシャフト、デフを外した下廻りの写真になります。
なかなか見られる光景では無いのでボディの状態も同時にチェックし、サビ等の問題が無いか調べます。
ステアリングロッド、ブレーキラインの見直しも追加させていただきました。
フロントのストラット。ビルシュタインと社外のダウンサスが組み合わされていました。
今回もショックはビルシュタインをチョイス。コイルスプリングもかなり劣化した状態でしたし、
下がりすぎてステアリングを切ったときにタイヤがインナーフェンダーに当たってしまっていたので新品に交換致しました。
ロアアームも新品に交換。ボールジョイント部も固着してしまってスムーズに動かず本来の機能を果たしていない状態。
フロントのアッパーマウント。どちらが新しくてどちらが古いかは一目瞭然ですね。
本来であればここまで潰れてしまう前に交換した方が良いでしょう。
フロントのスタビブッシュ。この部分は縦横からの力が加わる箇所なので変形の仕方が良く分かります。
縦にも潰れていますが横にも伸びてしまっています。
フロントのスウィングサポートもブーツが破れグリスは切れている状態でした。
こういった状態で放置することによりスタビライザーとショックの動きの連携が取れなくなり
ギクシャクとしたバランスの悪い挙動が目立ってきます。
古いから車体のキシミ音は仕様が無いと諦めている方も多いようですが、ボディフレームに問題が無ければ
手の入れ方、パーツの組み方等によってまだまだ新車に近い乗り味を復活させることは出来ます。
リアのショックはショックアブソーバーとしての機能は果たし終えておりました。
アッパーマウントも同様です。
リアのコイルスプリングも交換です。
同時にスプリングシートも同時に交換。
リアのスタビブッシュ部。フロントブッシュ類と同じように変形、消耗していました。
スタビ本体はアルミやスチールを使用しており確かに硬く強固な金属ですが、ある一定の力がかかれば変形もします。
古い車だから金属疲労で変形した。とか折れた。という事は稀です。スタビだけに限った事では無いですけどね。
セミトレーリングアームのブッシュも写真の通りの状態。
あまりにもヒビ割れがひどいのでアクスルメンバーが変形していないか心配でしたが
寸法を測った所、規定値でしたのでそのままアクスルメンバーは使用致しました。
メンバーマウントも交換。メンバーマウントは消耗品です。手間は掛かりますが
生産から15年以上経過していてセミトレの足廻りを採用してる車輌は必ず交換した方がいいですよ。
デフマウントも交換。635のレポートと重複しますがプロペラシャフトからの駆動力を
ドライブシャフトにスムーズに伝えるようデフケース自体の動きを抑えます。
衝撃を止めるだけではなく分散させる為にスグリ入りのブッシュ構造になっています。
強化ウレタンブッシュ等はシフトフィーリング、ダイレクト感等の向上も望めますが
音がうるさくなったりと実生活で使用する事を前提にメンテナンスを行うケースがほとんどなので
あまりストレスの溜まるようなパーツの使用はご指定が無い限りあまりしません。
もちろんウレタンブッシュの良さもありますので誤解の無いよう。
あくまでもオリジナルにこだわります。
こちらは不動にて引取りにお伺いして入庫したM3。87年式クロスミッションのディーラー車。
2ヶ月間オーナー様は他車種への乗り換えも検討したようですがステアリングを握りたい車がどうしても無かったそうで
手を入れることによってこのM3が乗れる状態になるのであればと。当社にご連絡頂きました。
エンジンはなんとか掛かりますが随分ラフなアイドリング。水温も安定しない状態。
各部の消耗品やゴム類も交換形跡はありますが、中途半端に手が入っている状態。
検査するとシリンダーヘッドからのオイル漏れも見られ、燃圧値も安定しない。
ファンカップリングも動きがおかしい。etc....
各部に細かく手を入れていく必要性がありそうです。
ですが手を入れてあげればまだまだ気持ち良く走っていけるコンディションに戻る車です。
オーナー様と打ち合わせし、エンジン部を見直し、しっかりと止まってしっかりと走れる状態にまで
コンディションを引き上げるメニューを作成し、オーナー様にお伝えし作業開始です。
まずはエンジンを下ろし、洗浄。
分解時、余計なゴミの混入を防ぎ、不具合箇所の見落としが無いかもチェックします。
触るときに汚れが有るより無い方がいいですしね。エンジンやミッションを分解したり精密作業をする為の部屋にそのまま持っていきます。
上から順に分解開始です。各部のパーツの汚れ具合や消耗具合、破損欠損が無いか
調べながら作業を進め、追加作業がある場合はオーナー様にお伝えするようにしています。
ダイナモステーが折れていたので、ステーとブッシュの交換。M3の場合は定期交換部品です。
ピストンもシリンダーボア内も目立った傷も無く良好な状態。圧縮もしっかりと取れていました。
各部の汚れを取り除き、ガスケット類を新品に交換して組み上げ開始です。
簡単に書いてますが時間は掛かってます。
デスビキャップ、ローターは通常性能を期待出来ない状態なので交換。テンションコードも
交換しようと思いましたが検査の結果まだ使用可能との事なのでそのまま使用しました。
エキスパンションタンクは新品と交換。プラスチックも硬化が酷く割れて水が漏れ出すのも時間の問題でしょう。
圧力保持も出来ない状態でしたからラジエターキャップも交換。
燃料部分のメンテナンス。燃料ポンプは動いていましたが、鈴虫が鳴くような音がしていましたし
正常燃圧値が出ていない状態でしたから交換となりました。
サブの燃料ポンプも交換。こちらはタンク内に設置されているポンプでメインポンプに
燃料を送出する為のポンプ。2つの燃料ポンプを設置する事によってどんな速度域でも燃圧異常変化を防ぎ
正常な状態であればどんな回転数でもエンジンがもたついたりする事はありません。
プレッシャーレギュレーターも交換。非分解パーツは清掃をしても
意味のないケースがほとんどなので交換してしまいます。
何度か交換された記録は残っていましたが燃料フィルターも交換。
これでフューエルラインを洗浄しフューエル系統のメンテナンスは万全です。
工場長がエンジンを組んでいる間にエンジンルーム内の長年の汚れを落としておきました。
ホワイトボディが眩しく甦りました。こうしておけば次に何かあったとしても見やすいですし、
せっかくエンジンが甦っても左のエンジンルールに載せるより右のエンジンルームの方が気持ち良いですよね。
外出している間にエンジンが乗っていました。
各補機類を付け、オイル、冷却水を注入し、準備が整ったら油圧を上げます。
キーを捻り燃料ポンプを作動させクランキング、何度か繰り返すと
小気味良いエンジン音がピット内に響き渡りました。
アイドリングも安定し、調子の良いM3の音が復活しました。
各部の機能チェックを確認し、問題が無いことを確認し、フォーンと良い音を響かせながらテストランに向かいます。
2台のM3共に組み上がり後、何日間か調整とテストランを繰り返し問題が無い事を確認し納車となりました。
足廻りの見直しをしたM3は段差の突き上げ時等しっかりとボディ全体でその衝撃を受け止め
やさしくその衝撃を各部に分散してくれます。かと言って弱々しいものでは無く、鋭くステアリングを切り込んでいくと
乗り手の進んで行きたいポイントへしなやかに力強く進んでくれるようになりました。
エンジン見直しのM3も次回の課題がありますがエンジンの吹け上がりは申し分無し。
1速は発進のきっかけ作り。2速でレッドゾーン近くまで回転数を上げ、車体をスピードに乗せ
3速にシフトアップ。ここで一旦アクセルをちょっと緩めた後に前方の様子を確認し
クリアーな状態であればグッと再度アクセルを踏み込みタコメーターの針を確認しながら4速へシフトアップ。
大概、街中ではここら辺で前方の車に追いついてしまいますが非常に爽快な軽さと吹け上がりが甦りました。
作業内容としてはレストアレーションの部類に入る作業なのかもしれません。
そういった作業をする価値のある車かどうかというのはオーナー様ご自身の価値観の問題ですが、
こういった作業を実施するお客様の多さに私達もM3という車の良さを再認識させられます。
歴史に残る名車と言っても大げさでは無いのかも知れませんね。
2007年08月11日